“6年間育てた息子は、他人の子でした”
自分が父親だったらどうするんだろう?
ずっと考えながらこの映画を見ていました。
自分にはまだ子供がいません。子供を育てた経験がないので、この物語の登場人物の気持ちを100%理解できているわけではありません。
それでも間違いなく言えることは「子供を産む前にこの映画を見れてよかった」ということ。
是枝監督は日常の自然体な姿を描くのが非常に上手い監督なので退屈だと感じた人も多いと思います。
それでも、この映画から学ぶこと、考えさせられることがたくさんありました。
是枝監督は「答えを観客に委ねる」という印象がありますが、この映画ではほぼ答えを出していたように思います。
映画はここで一区切りですが、この家族の物語はこれからも続いていきます。だから是枝監督の答えが正しいかはわかりません。
それでも、自分が考えた答えと是枝監督の答えが合っていて嬉しく思っています。
前置きが長くなりましたが、これから父になる全ての人に見て欲しい映画「そして父になる」を振り返ります。
そして父になる あらすじ
本作が公開21日目で、興収20億円を突破いたしました! 皆さま、たくさんの応援とコメントありがとうございます!!#そして父になる pic.twitter.com/4SInssRfBN
— 映画『そして父になる』公式アカウント (@soshitechichi) 2013年10月16日
学歴、仕事、家庭。自分の能力で全てを手にいれ、自分は人生の勝ち組だと信じて疑っていなかった良多。
ある日病院からの連絡で、6年間育てた息子は病院内で取り違えられた他人の夫婦の子供だったことが判明する。
血か、愛した時間か―突き付けられる究極の選択を迫られる二つの家族。
今この時代に、愛、絆、家族とは何かを問う、感動のドラマ。
そして父になる 感想
累計の動員数が200万人を突破しました!! 映画をご覧になった感想もたくさんお寄せいいただきありがとうございます!#そして父になる pic.twitter.com/PCZxdYPilO
— 映画『そして父になる』公式アカウント (@soshitechichi) 2013年10月21日
子供のとりちがい
誰もが感じたと思いますが、子供の取り違いが判明するのが遅すぎますよね。
なんと6歳。血液検査で判明したのであればもっと早くわかりそうな気がしますが、本筋とズレるのでやめます。
一番最初に「取り違い」の事実を聞いた時、「子供の交換はまずしないだろうな」と思いました。
「どんくらいもらえるのかな、慰謝料」
だからリリーさんが慰謝料の話を持ち出した時も、無神経だとは思いましたが理解はできました。
リリーさんの心の中では「交換なんてありえない」という思い込みがあったから、あんな言葉が出てきたんでしょうね。(もちろんお金に困っていたということもあると思いますが。)
映画内で福山家とリリー家は対照的に描かれています。
- 裕福な家と貧乏な家
- 都会の家と田舎の家
- ひとりっ子と兄弟
- 仕事熱心な親と家族第一の親
福山家はやや冷たい印象がありますが、はっきりとした教育方針を持っています。リリー家はお箸の持ち方も教えてくれません。
一般受けしそうなのはリリー家だと思いますが、どちらの子供が幸せになるかなんてわかりません。
全く違う2つの家族。それでも親から子供への愛情は変わらないように感じました。
最初の選択
子供のとりちがいなんて経験したこともありませんから、どうすればいいかなんてわかりません。
自分ならどんな手順で答えを出すのかと考えながら見ていましたが「まずは家族同士で会って、少しづつ宿泊にステップアップしていく」のはいいアイデアだと思いました。
子供を交換するかどうかなんて、そんな簡単に決断できるはずもありませんから。
親だけで決められる案件ではありません。子供の様子を見ながら決めるのは当然ですよね。
「最終的には100%、ご両親は交換という選択肢を選びます。」
「子供は早いもんですよ、馴れるのは」
「思いのほか上手くいくかもしれませんよ」
病院の方はこう言っていましたが無神経ですよね。早く決着をつけたい病院側の思惑は分かりますが…。
2人とも引き取る
それにしても福山さんが「2人とも引き取る」という提案をしたのは驚きでした。
きっかけは上司の発言。冷静になればありえない発言ですが、これに影響されてしまうのも上下関係に厳しいサラリーマンらしいですよね。
福山さんがリリー家を見下していたことは間違いないでしょう。
「なんで上から目線で話されてんだよ」
「なんで俺が電気屋にあんなこと言われなきゃならねえんだろうな」
対等であるはずの2つの家族ですが、福山さんは常に上から。初めてリリー家を訪れた時にもボロさを嘲笑っていました。
「金さえ出せばなんとかなるだろう。」
そう思っていたはずです。
交換
何度か宿泊を繰り返した後、結局交換という結論に達しました。
印象的だったのは、福山家の家訓を琉晴くんに伝える時、琉晴くんがひたすら「なんで?」と聞き返していたシーン。
きっと福山さんは仕事で部下に「なんで?」と言われることが少なかったのでしょうね。
「なんででもだ」
強引に解決しようとしますが当然琉晴くんは反抗します。福山さんは全く琉晴くんの気持ちを考えていませんよね。
映画を通して気になったのは、なぜ子供に真実を伝えなかったのかということ。
確かに6歳という子供には重すぎる話題であることは確かです。
何で?
いつまで?
子供に疑念を抱かせたまま、ほぼ説明もなしに両親が入れ替わるのは、子供にとって辛すぎますよね。
これが最後の「パパなんて嫌いだ」発言に繋がります。
映画では福山さんばかり悪者のように描いていましたが、リリーさんも子供への説明はしなかったようですね。(リリーさんの場合、元々口下手だから行動で愛情を注ごうと思っていたと思いますが)
何が正解かは分かりません。
それでも子供の意見を聞いてみるという選択肢もあった思います。
「りゅうちゃん、何をお願いしたの?」
「パパとママの場所に帰りたい」
子供の本音をようやく聞いたのは、映画の終盤でした。
父親の成長物語
出典:http://eiga.com/movie/58060/gallery/3/
この映画は「子供のとり違いの物語」であると同時に、「父親・福山さんの成長物語」でもあります。
映画を通して福山は終始相手の気持ちを考えられません。
子供たちと楽しそうに遊ぶリリーさんとはちがい、福山さんは子供をじっと観察するだけ。慶太くんが家に遊びに来た日も仕事です。
「やっぱりそういうことか・・・」
DNA鑑定の結果を読んだ後のひとことは奥さんも堪えていましたが、親からこんなこと言われたら泣いちゃいますよね。
琉晴くんが福山家になかなか溶け込めなかったことに対し、慶多くんがリリー家に比較的スムーズに入っていっとのはこの違いもあると思います。
福山さんは子供の交換がこんなに難しいとは思っていなかったんでしょうね。
「負けたことないやつってのは、本当に人の気持ちがわかんないんだな」
「似てるとか似てないとかそんなことにこだわってるのは、子どもと繋がってるって実感のない男だけよ」
「母親通しいろいろ情報交換しないといけないのよ、あなたにはわかんないでしょうけど」
多方面から責められてばかりの福山さんですが、琉晴くんの家出や自宅でのキャンプを通して少しづつ気持ちが変わっていきます。
慶多くんが自分の写真をカメラに収めていることに気づいて、グッと涙を堪えていたシーンは名シーンでしたね。
何気ないシーンなんですが、家族の愛情を感じるのってこういうさりげないところなんですよね。
カメラのファインダーを通して、福山さんはようやく「子供の視点」に気づきます。
仕事ばかりでかまってくれない父親。家では疲れて寝ているばかり父親。
良太くんがカメラを向けていたのに、それに応えられていなかったことに気づきます。
慶多、ごめんな
パパ、慶多に会いたくなっちゃって
パパなんてパパじゃない
そうかもな、でも6年間はパパだったんだよ
出来損ないんだけどパパだったんだよ
このシーンのセリフ回しは絶妙でした。
パパも完璧ではありません。だからこそ、自分の非を認めて、息子に謝る。
以前の福山さんからは考えられません。
福山さんが立派な父になった瞬間でした。
そして父になるの結末は?
出典:http://eiga.com/movie/58060/gallery/2/
是枝監督は映画の中で明確な結末は描いていません。
子供の交換を取りやめたように見えますが、一時的に両家揃って遊んでいただけの可能性もあります。
これからもお互いの家を行ったりきたりする生活を続けるという選択肢もあるでしょう。
ただ、間違いなくいえることは「家族とは血の繋がりだけではない」ということ
たとえ血なんか繋がっていなくても、同じ屋根の下で一緒に暮らしているならそれは家族なんだということ。
是枝監督が伝えたかったのはそういうことではないでしょうか。
「私たち家族の負担というのは一時的なものではありません。この先もずっと苦しみは続くと思います。」
映画で描かれたのはステレオタイプな2つの家族の物語。子供の交換を辞めて、元の姿に戻ったようにも見えますが、2つの家族にはこれからも様々な困難が訪れるでしょう。
それでも、血が繋がっていなくても、深い愛情さえあればきっと乗り越えていけると思っています。
ところで、あっさり流されましたが、子供をわざと入れ替えた看護師さんはとんでもないですね。
あれだけのことをやって、たった時効5年なんですね。
私たちはずっと苦しみ続けていくのに…
どんな事情があろうが、自分の子供がこんなことをされたら絶対に許せません。
福山さんが看護師の家を訪れて慰謝料を突き返した時、子供が母親を守るシーンがありました。
「子供に愛されている看護師」と「子供に愛されていない福山さん」のちがいが鮮明になりましたが、きっとこの看護師も子供に事実を伝えていないでしょうね。(事実を伝える必要は全くないですが)
日本では子供に大人の世界を教えることがタブーといった風潮があります。特にお金が絡むとなおさらですね。この辺りにメスを入れる作品があれば読んでみたいです。
印象に残ったセリフ
本作の累計成績が動員:2,574,152名/興収:3,001,430,500円と、公開49日目に累計興収30億円を突破しました!! たくさんの応援ありがとうございます!!#そして父になる pic.twitter.com/ZPFqIkuU6Q
— 映画『そして父になる』公式アカウント (@soshitechichi) 2013年11月12日
最後に「そして父になる」で印象に残ったセリフを紹介します。
あなたならどんな決断を下しますか?
不思議なもんだなあ
俺は慶多の顔を見て琉晴って名前をつけたのに、どうみても慶多って顔だもんな
離れて暮らしてたって似てくるもんさ
何言ってんの?子供は時間
父親かて取り換えのきかん仕事やろ
琉晴くんの家のおじさんもおばさんも慶多のこと大好きだってさ
パパより?
…パパよりもだ
パパちゃうよ
そして父になるって映画見たけど最後泣いてしまったー
子供の視点、家族の視点がリアルに再現されている。
特に子供の頃を忘れて大人になりきってしまった人にオススメ。
自分が親になった時に衝突する悩みと向き合える映画だ— 宮本誠 (@essential_6) 2017年11月13日
そして父になるの余韻に浸ってる。両極端だから、どっちの父親に共感ってのはなくて、でも福山側の奥さん(尾野真千子)に一番重なったかな。片方の子愛した時の、もう一方への裏切り感。そして血と時間どっち、なら時間!って思ってたけど、子の将来を考えると天秤が水平なまま動かないわ、顔とかね
— M (@pradameee) 2017年10月21日
そして父になる、を観たんだけど ギターを銃みたいに構えて息子を迎えうつ福山雅治の格好良さにやられました
— YM (@sknt2m) 2017年10月19日
「そして父になる」は「アマゾンプライムビデオ」で配信中です。
是枝監督の別の作品「三度目の殺人」もオススメです。真実が何なのか、自分ならどうするのか考えさせられます。