きっと誰にでも「やり直したい」ことがある
『君の膵臓をたべたい』ですっかり住野よるさんの世界に魅了されてしまった私。
きっかけはキミスイの映画でしたが、その後すぐに原作も読み、その勢いで『また、同じ夢を見ていた』に辿り着きました。
『また、同じ夢を見ていた』は読み返せば読み返すほど優しさに包まれる作品です。
初めて読んだタイミングでは絶対に気づけない伏線がそこかしこに敷き詰められています。
私も初めて読んだ直後は全容を理解できていませんでしたが、色々な方の解説を読みながら少しづつ紐解いていき、もう一度読み返したときたくさんの感動に包まれました。
この作品のテーマが「幸せとは何か?」であることに疑問を持つ人はいないでしょう。
それでも、もう一度読み返すと、そのテーマだけでなく、南さん・アバズレさん・おばあさんの愛情に包まれます。
マンガ版もどうぞ!
また、同じ夢を見ていた あらすじ
友達のいない少女、リストカットを繰り返す女子高生、アバズレと罵られる女、一人静かに余生を送る老婆。
彼女たちの“幸せ”は、どこにあるのか。
「やり直したい」ことがある、“今”がうまくいかない全ての人たちに送る物語。
主人公は小学生の女の子 “奈ノ花”
国語の授業で課された「幸せとは何か?」の答えを見つけるために、3人の女性の元を訪ねてヒントをもらっていくお話です。
奈ノ花が出会う3人の女性は「また、同じ夢を見ていた」と同じセリフをつぶやきます。
そして3人とも、名乗ってもいないのに、なぜか奈ノ花の名前を知っています。そして、奈ノ花の前から突然姿を消してしまいます。
この3人の女性の正体とは?
また、同じ夢を見ていた 解説
- 小学生の奈ノ花
- 南さん
- アバズレさん
- おばあさん
いいか、人生とは、自分で書いた物語だ。
遂行と添削、自分次第でハッピーエンドに書きかえられる。
南さんの言葉が『また、同じ夢を見ていた』を表しています。
人生のターニングポイントで間違った選択をしてしまった未来の奈ノ花が、小学生の奈ノ花にアドバイスして、幸せな人生へと導いてくれます。
結果的に、エンディングで登場した幸せな奈ノ花へと成長できたんです。
3人の女性は奈ノ花にどんなアドバイスをしたのでしょうか。
南さんのアドバイス
「だったら、お父さんもお母さんも仕事が忙しくない家に生まれればよかった!」
奈ノ花は授業参観日に来れない両親にヒドイ言葉を言ってしまいます。
「死んだんだ、ずっと前、事故で。」
南さんには両親がいません。
最終章で、授業参観の日に飛行機事故があったことが明かされます。
「後悔、してる。ずっと後悔、してるんだ。あの時、なんで謝れなかったのかって。」
つまり、リストカットを繰り返す女子高生の南さんは、両親に謝れなかった奈ノ花の未来の姿です。
「今から帰ったら、絶対に親と仲直りしろ。」
「私みたいに、喧嘩したままもう会えないなんてことになってほしくない」
南さんに諭されて両親と向き合った結果、両親は授業参観にきてくれて事故に遭わずに済み、奈ノ花も南さんの様に孤児になることはありませんでした。
【南さんが考える幸せ】
幸せとは、自分がここにいていいって認めてもらうことだ
南さんは、前髪をかきあげて、私の目をしっかりと見ました。
初めて見る南さんのまっさらな顔は、アバズレさんみたいに透明で、おばあちゃんみたいに優しくて、素敵でした。
『また、同じ夢を見ていた』を読み返したときこの文を読んで「うわーーー」ってなりました。
初めて読んだときはこれが伏線だったなんて全く気づかなかったなあ…。
アバズレさんのアドバイス
「皆、お前のことが嫌いなんだよ」
桐生くんのお父さんがスーパーで泥棒をした事件をきっかけに、クラスメイトと喧嘩し、無視されるようになった奈ノ花。
「もう、私は、誰とも関わらずに生きていくわ」
「それは駄目」
“季節を売る仕事”をしているアバズレさんは、奈ノ花が1人で生きていこうとすることには強く反対します。
皆を馬鹿にしてる子が人に好かれるわけがない。その子はどんどん周りの人達に嫌われだした。そこでいけなかったのは、その女の子は、ちょうどいいと思っちゃったんだ。
ある時、気づいたんだ。自分の周りには何もないってことに。立派な大人になったはずなのに、褒めてくれる人もいないってことに気がついた。
そう、アバズレさんはクラスメイトとの関係を修復できなかった未来の奈ノ花です。
両親は生きていますが、もうずっと会っていません。自分が大嫌いで、自棄になって、人生を終わらそうとします。
「やっぱり、お嬢ちゃん。誰とも関わらないなんて、駄目なんだ。人と関われば、こういう素敵な出会いがある。」
アバズレさんに諭されて、クラスメイトもみんな考えていることを知った奈ノ花。
桐生くんの元をもう一度訪ねることで、一人ぼっちではない人生を選択します。
もちろん季節を売る仕事に就くこともありませんでした。
【アバズレさんが考える幸せ】
幸せとは、誰かのことを真剣に考えられるということだ。
【アバズレさんが考える人生】
人生とは、プリンと一緒だ。人生には苦いところがあるかもしれない。
でも、その器には甘い幸せな時間がいっぱい詰まってる。
人は、その部分を味わうために生きてるんだ。
「おばあちゃんは、今、幸せなのかなと思って。」
「ええ、幸せだって言ってたわ。」
答えると、アバズレさんは本当に嬉しそうに笑って「よかった」と言いました。
ここのやりとりもじんわりきますね。おばあちゃんが未来の奈ノ花であることに気づいたアバズレさん。
自分のアドバイスによって奈ノ花が正しい道を歩めたんだということを知ります。
おばあちゃんのアドバイス
「ねえ、おばあちゃん、この絵を描いた人は今、どうしているの?」
「家族と一緒に外国で暮らしているわ」
幸せそうなおばあちゃんですが、Live meの絵描きとの関係が「友人」に留まっています。
「おばあちゃんの友達もだけど、絵描きっていうのは、凄く繊細な人達なんだ。傷つきやすくて、人より弱いところもあって」
桐生君と向き合えた奈ノ花ですが、関係を修復できず、桐生くんを傷つけたひとことをずっと後悔していることがわかります。
「大好きなことに一生懸命になれる人だけが、本当に素敵なものを作れるんだよ」
おばあちゃんの言葉のおかげで、奈ノ花は桐生くんと一緒に幸せを見つけられることができました。
「これ、ちょうだい」
桐生くんがくれたそれを、私は自分の部屋に飾ることに決めました。
ここまで読めば、奈ノ花=南さん=アバズレさん=おばあちゃんであることに、多くの人が気づいたでしょうね。
「僕の幸せは、僕の絵を好きだって言ってくれる友達が、隣の席に座っていることです。」
このセリフにがっしりと心を掴まれました。
この言葉を聞いて、幸せを感じない人はいないでしょう。
誰にでも伝わる真っ直ぐな言葉。
こんな友人が、周りに何人いるかなあ?
おばあちゃんが「奈ノ花=昔の自分」であることにどこで気づいたのかは分かりません。それでもおばあちゃんはずっと幸せそうです。
【おばあちゃんが考える幸せ】
幸せとは、今、私は幸せだったって、言えるってことだ。
しっくりきますね。さすがおばあちゃん。
【おばあちゃんが考える人生】
人生とは、すべて希望に輝く今のあなたのものよ。
泣いちゃいますね。
3人が見ていた夢
だけどその時、もうすでに私の口や声帯はそっちにはありません。
声が出なくなり、やがて見えている風景が右目と左目で違っていることに気がついて。
この時ようやく私は気がつくのです。ああ、ここで終わりか、と。
3人が見ていたのは同じ夢。
最終章、ここまでのお話が現在の主人公が見ていた過去の夢であることがわかります。
周りを思いやることも出来ず、味方も友達もいなかった奈ノ花ですが、3人のアドバイスのおかげで幸せなまま大人になることができました。
【奈ノ花の考える幸せ】
幸せとは、自分が嬉しく感じたり楽しく感じたり、大切な人を大事にしたり、自分のことを大事にしたり、そう言った行動や言葉を、自分の意思で選べることです。
3人のアドバイスを元に、自分の人生を”選択”してきた奈ノ花らしい幸せの定義ですね。
最後の一文がとっても素敵でしたが、作者の方が「ネタバレしないように」とツイートしていたので、ここでは控えます。
最後の一文を読んでも意味がわからなかった人は、ぜひ南さんと話す章を読み返してみてくださいね!
また、同じ夢を見ていた 感想
このお話では、未来の奈ノ花が小学生の奈ノ花にアドバイスをします。
もしも人生がやり直せるなら。
もし自分が過去の自分にアドバイスするとしたら、どんなアドバイスをするでしょうか?
難しくないですか?
本気の言葉でないと伝わりません。
私はこの本を読んだ直後、奈ノ花が羨ましいと思いました。でも、私の周りにもアドバイスをくれる人はたくさんいます。
自分はそのアドバイスに耳を傾けられているだろうか?
自分は誰かにアドバイスができているだろうか?
そんなことを反省しました。
いいか、人生とは、自分で書いた物語だ
遂行と添削、自分次第でハッピーエンドに書きかえられる。
良いい人生を掴むのも手放すのも自分次第です。
他人のせいにすることなく、自分から前向きに行動していける人生でありたいですね。
【私の幸せは?】
好きなことに時間を忘れるほど夢中に取り組む日が続くこと。そして、それが誰かに喜んでもらえること。
うーん、、すぐには答えが出そうにありませんね。まだまだ考え続けそうです。
あなたの幸せはなんですか?
追記:この言葉が本当に大好きです。
「大好きなことに一生懸命になれる人だけが、本当に素敵なものを作れるんだよ」
住野よる作品を楽しもう!
現在発売されている住野よるさんの著書は6作品。どれも住野よるさんらしい独特の言葉使いと心情描写が魅力です。
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ちょっと見つめ直してみませんか?
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